Facebookを見ていたら、嬉しいニュースを目にしました。
写真家の大竹英洋さんの著書「そして、ぼくは旅に出た。 はじまりの森 ノースウッズ」(あすなろ書房)が、ホワイト・レイブンズ2019に選ばれたというのです。
「ホワイト・レイブンズ」とは、世界の優れた児童書を多くの国の子どもに読んでもらうことを目的として、ドイツのミュンヘン国際児童図書館が毎年刊行する国際推薦児童図書目録だそうです。(今年度は59か国37言語200作品が掲載)
この本は、児童書というにはちょっと難しいというか、文字も多くボリュームもあるのですが、中学生や高校生など、若い人にぜひとも読んでもらいたいと、私も常々思っていましたので、国際的に児童に推薦する図書として選ばれたことはとても嬉しいことです。

じつはこの本、2018年私がもっとも心動かされた一冊なのです。
新聞の書評で見て気になり、早速アマゾンでポチっとしたものの、何となく通勤電車とかで細切れに読んではいけない気がして、しばらく手元に温めていました。
2018年の春休みに、子供を連れて夫の赴任先のベトナムに行く時、旅のお供に持って行ったのですが、行きの飛行機の中ですっかり心を奪われてしまっていました。
これは、カメラマン、大竹英洋氏の自伝です。(といってもまだお若く、現在絶賛活躍中の方ですが)
大学4年の大竹青年、写真家になろうと決めていたものの、撮影のテーマも決めかねていたある日、オオカミの夢を見ます。
それまで、特にオオカミに関係したことをしていたわけではなく、被写体としてオオカミを意識していたわけでもありません。
自分でもなんでそんな夢を見たのかわからないまま、何となくオオカミについて調べてみようと図書館に行き、そこで一冊の写真集と出会います。
世界的に有名な自然写真家、ジム・ブランデンバーグの「ブラザーウルフ」。
これが運命の出会いとなりました。
こんな写真を撮りたいと強く思った大竹青年は、ジムに弟子入りすべく会いに行こうと決心します。
ここからの行動力がすごいのです。
ジムが作品を掲載していた「ナショナルジオグラフィック」社に手紙を出してみたものの、返事はこない。
それならば、直接会いに行ってしまおうと、北米に向かいます。
正確な住所も何もわからないのに。
手がかりはたったの3つ。
ナショナルジオグラフィック誌の記事から、彼はミネソタ州北部のイリー(Ely)という町の郊外に住んでいること。
写真集「ブラザーウルフ」の中に、ジムの小屋の写真が載っていたこと。
そして、「ブラザーウルフ」の表紙を開いたところにある、彼の手書きの絵地図。
それだけの手がかりで、初めてアメリカに向かいます。
なんだか冒険小説のようで、ハラハラドキドキ、ワクワクしました。
結局紆余曲折を経て、ジムのところにたどり着くのですが、その道程が瑞々しい筆致で綴られています。
まず、旅の途中で出会った素晴らしい人たちとのエピソードが印象的で心温まります。
また、ノースウッズと呼ばれる北米の湖水地方を渡っていかなければならず、初めて使うカヌーに四苦八苦する話も興味深く、
そこの自然や出会う動物、水鳥たちの様子なども生き生きと描かれています。
そして、とうとうジムに会えたところは、読んでる方も感無量です。
大竹青年は、「弟子にしてほしい」と頼むのですが、ジムの返事は「弟子は必要としていない」。
あぁ、やっぱり世の中そううまくはいかないのかと思いきや、ジムの持っている小屋を貸すからそこに住んで好きなだけ写真を撮ればいい。そして、時々写真談義をしよう、と。
なんて素敵な提案!
その後大竹青年は、ジムを始め、ジムの友人たち、とりわけ世界的に有名な冒険家ウィルとの交流をとおして、写真のみならず、人生観やものの見方などに影響を受け、成長していきます。
この本で印象深かったのは、大竹青年の直感をキャッチする感性と、そこで行動に移せる行動力と自分を信じる力です。
進路や就職先に神経質になっている普通の大学4年生には、こんなことはできないでしょう。
結局、この本では大竹青年が写真家として大成するかどうかは、わかりません。
でも、ありきたりな世間のものさしで見るのではなく、直感のままに導かれ、いろんな縁や運を引き寄せ、自分の心の求める方向へと迷わず進む人生は、とても輝いていて素敵だと思うのです。
かといって、大竹青年、強引で能天気に突っ走るタイプではありません。
文章から察っする限り、実に謙虚で優しく、まじめ。自然の声に耳を傾け、動物や鳥たちへの敬意を忘れない、とても好感のもてるお人柄です。
子どもたちには、決められた進学、就職のルートだけでなく、こんな生き方もあるんだということ、本当に自分の好きなことを見つけること、行動することを知ってもらいたいと思います、
そして、知らない世界に飛び出していく勇気とすばらしさも。
ちなみに、小学生にはこちらがおすすめ。
たくさんのふしぎ傑作集「ノースウッズの森で」(大竹英洋:文・写真 福音館書店)
大竹さんの冒険譚はありませんが、美しいノースウッズの森とそこに暮らす動物たちの様子、冬支度と湖水地方ならではの雪と氷の上を渡る装備などを、美しい写真で紹介しています。
未知の地域や、自分たちの知らない自然や暮らしについて、知るきっかけになればと思います。


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