学び・気づき

「知らなかった、ぼくらの戦争」から気づいたこと 前編

詩人のアーサー・ビナードさんの著書、「知らなかった、ぼくらの戦争」(小学館)という本を読みました。

戦争を様々な立場で体験した23人の方に、アーサーさんが丁寧にインタビューし、考察を加えたものです。

戦争に関するものは、本でもドキュメンタリー番組でも、必ず深く考えさせられ、つら過ぎる出来事の数々に胸が苦しくなります。

この本では、そういった「戦争の悲惨さ」の他に、新たな視点やまるで思いつかなかった盲点のような事実に気づかせてもらいました。

 

アメリカ人でありながら、日本語を極めて深い部分まで理解し、操るアーサーさん。

アメリカで生まれ育ったアイデンティティと、日本をこよなく愛する気持ち、真摯でニュートラルなものの見方、そして詩人の感性と言葉のセンスをもって、23人の戦争体験者の証言を聞き取り、深い考察とともにまとめられています。

 

衝撃を受けた事実、考え込んでしまったことなどが随所にあり、私の中で消化するのに少し時間がかかりそうですが、その中でも「言葉について」と「別のアングルから見たあの戦争」について、2回に分けて書き留めておきたいと思います。

 

まず、「言葉について」。

さすがに詩人だけあって、アーサーさんの言葉に対する感受性は鋭く、本文中で指摘されていた言葉の使いかたに、ハッとさせられた個所がいくつもありました。

たとえば、「戦後」という言葉。

私たちは、普通に8月が近づくと「今年は戦後○○年」と言いますし、あの戦争の後のことだと誰もが理解しています。

しかし、この表現、英語ネイティブの人には、違和感があるようです。

「戦後」にあたる英語で、「postwar」という言葉はあります。

この言葉に年数をくっつけただけでは、彼らは「その戦後って、どの戦争のこと?」と思うそうです。

日本人が想起するのは、第二次世界大戦しかありませんが、アメリカではその後、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争などいくつも「戦後」があるのですから。

「戦後75年」を数えること、その言葉に誰もが共通認識を持っていることの意味の大きさを、私は今初めて意識しました。

 

また、「玉音」「玉砕」の言葉も、今まで知らなかった意味を教えられました。

1945年8月15日、天皇陛下がラジオで国民に終戦を告げたのを「玉音放送」、戦場で兵士が戦死したり、特攻隊として散っていったのを「玉砕」というのだと、いつの頃からか知っていましたが、その「玉」についてよく考えたことはありませんでした。

日本語では、天子に関わるもの、ことに「玉」を美称として使います。

玉音の他にも、玉座とか、玉璽、玉体なんて言葉もあります。

だから、「玉砕」も戦争の文脈の中で、同じようにとらえてきましたが、砕け散ったのは天皇ではありませんよね。

 

アーサーさんは、「玉砕」の英訳を探っています。

玉音の流れからくれば、Emperorが登場するはずですが、そのような英訳は辞書にはなく、”death for honor” “die in honor” または、”honorable death”といった、「名誉の戦死」に近い言い方になるそうです。

加えて、「降伏せず死ぬまで戦う」や「死力を尽くした戦い」などの表現もあるそうですが、どれも「玉砕」のほんの一端しかとらえていず、その仕組みも心理も表していない、とアーサーさんは言います。

 

さらに「玉砕」の英訳を調べていったアーサーさんは、文学作品の中に”The Breaking jewel”という訳を見つけました。

また、日本兵の体験を英語で紹介している人も、”Shattered jewel”(砕かれた宝石)とストレートに置き換えていることがわかったそうです。

しかし、英語の読者は当然「玉があって、それが砕ける」という順序でイメージしますが、これが勘違い。

「玉が散る」のではなくて、「玉と散る」のです。

兵士一人ひとりが最初から「玉」であるわけがなく、「砕けて」はじめて「玉」になるのです。

生きたままだと価値がなく、死をもって美しく貴い存在に化けるというのが「玉砕」のカラクリとアーサーさんは読み解きました。

 

英語と日本語を行き来するからこそ、見えてくるものがあります。

私も翻訳をしていたので、わかりますが、普段、何気なく当たり前に使っていた言葉を、訳そうとするとはたと立ち止まってしまうのです。

この言葉の本来の意味はなんだろう?

その場面で、文字どおりの直訳で、真意が表現できるものだろうか?と考え、動けなくなったことが何度もあります。

 

アーサーさんも、「玉砕」の英訳を調べていくうちに、この日本語がはらんでしまった美学、影響力と悲しさ、残酷さが浮き彫りになってきました。

私も、半世紀も日本人として生きてきて、たくさんの戦争を扱った映画や書物に触れてきながら、「玉砕」の言葉が持つ本当の意味や暗示するものにまったく気がつきませんでした。

今、この本に教えてもらい、愕然としています。

 

 

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