「オニのサラリーマン」(富安陽子:文 大島妙子:絵 福音館書店)という絵本があります。
主人公のオニガワラ・ケンは、じごくカンパニーに勤めるサラリーマン。
毎日、満員バスに乗って、地獄に出勤しているという設定です。

なぜか関西弁のオニガワラ氏の、サラリーマンとしての苦労の日々が描かれています。
ナンセンスで笑えるお話なので、小学校の読み聞かせでも読むことがありますが、実は子供より担任の先生にうけています。
やはり、おとなの方が勤め人の悲哀に共感できるってことですね。
とにかく大人気の作品で、続編「じごくの盆やすみ」「しゅっちょうはつらいよ」も出ています。


この人気作品がEテレでアニメ化され、8月に3週にわたって放送されました。
今回は、9月30、10月1日、2日と3夜連続で、9時55分から5分間、再放送されました。
3本とも原作にないオリジナルのお話で、アニメ版にしか出てこないキャラもいます。
テーマも、実に最新の、タイムリーなネタを扱っています。
9月30日:「残業はつらいよ」
10月1日:「リスク管理はつらいよ」
10月2日:「花火大会はつらいよ」
という感じ。
見てみて、感じたのは、「絵本とは違うものだな」ということでした。
絵本で生まれた「オニガワラ・ケン」というキャラクターを借りて作った、全く別物の世界。
悪いというわけじゃないんです。
原作の絵のタッチをよく再現していますし、オニガワラ氏の声は俳優の堤真一を起用して、なかなかいい味出しています。
でも、アニメの場合、制作者が作った声、音楽、色、動き、テンポで進んでいきます。
見ている方は、まったく受動的なのです。
絵本を読むときは、自分のスピードでページをめくり、自分の頭の中で登場人物の声を想像し、絵の中にさりげなく描き込まれた面白いところを発見したり。
そんな楽しみがあります。
もちろん、読み聞かせの時は、受動的に読んでもらうのを聞いているわけですが、効果音は入れませんし、読み手の声をとおして言葉は受け取りますが、実は登場人物の声は無意識に自分の頭の中で想像していると思うのです。
落語と一緒ですね。
噺家は、一人で何役もやります。
もちろんそこに芸のよしあしは関わってくるかもしれしれませんが、聞き手は暗黙の了解で、自分の頭の中でお話の世界を作りだしています。
だから、聞き手一人一人の頭の中にその人独自の作品世界があるのです。
今回、私がなんとなく違和感を持ったのは、私の中の「オニのサラリーマン」の世界と、アニメで作りだされた世界が全然違ったからかもしれません。
テーマが時事ネタ過ぎたのも、ちょっと生々しかったかな、と思います。
でも、まぁ、番組の合間に放送される短いアニメ作品として見れば充分楽しめますし、これからもオニガワラ・ケン氏を応援していきます。