読書

吉田修一著「国宝」をAudibleで聴ける喜び

「国宝」(吉田修一:著 朝日新聞出版)という長編小説を、オーディオブックサービスのAudibleで聴きました。

上・下巻に渡る大作で、戦後の歌舞伎界を舞台にした壮大なドラマです。

 

極道の家に生まれ、抗争で父親を殺された喜久雄。

様々な事情から縁を頼って大阪の歌舞伎役者の家に預けられ、役者の修行をすることになります。

一方、名門役者の御曹司として生まれた俊介。

この二人の人間ドラマが、戦後復興から昭和の高度成長期、バブル期の時代を背景に繰り広げられます。

厳しい芸の道、一見華やかそうな芸能界の残酷さ、人気の栄枯盛衰・・・

物語の面白さに、ぐいぐい引き込まれて一気に聞いてしまったのですが、この作品の魅力はストーリーだけではありません。

 

なんと、朗読が尾上菊之助なのです。

本物の歌舞伎役者が、歌舞伎のシーンやセリフを読んでくれるのですから、それは迫力があります。

昭和のあの時代に活躍した役者のあの人、この人のイメージが、登場人物に重なります。

役者の血筋でないながらも、人並み外れた美貌と芝居のセンス、芸への飽くなき探求を続け、頂点を極める喜久雄には坂東玉三郎が、御曹司として恵まれた出自と才能で早くから注目されながら、最後は病に倒れた俊介には中村勘三郎が重なりました。

 

実は私、十代の後半から二十代半ば頃まで、かなり歌舞伎が好きでした。

大学の歌舞伎研究会にも在籍し、東銀座の歌舞伎座、三階席に設けられた一幕見席という安い席に毎週のように通ったものです。

あの当時は、「孝・玉コンビ」と言われて、片岡孝夫(後に仁左衛門)、坂東玉三郎の美しいコンビが人気絶頂。

中村勘九郎(後に勘三郎)、尾上菊五郎、尾上辰之助、坂東八十助(後に三津五郎)、中村児太郎(後に福助)橋之助兄弟などが、若手で大活躍していました。

人間国宝の大御所として、中村歌右衛門、中村松緑、中村梅幸、中村勘三郎などもまだ舞台でいぶし銀の芸を見せてくれていました。

 

オーディオブックの音声を聞きながら、あの時の高揚感がよみがえってきます。

非日常の舞台の世界。

シャリンと花みちの幕が勢いよく引かれる音、三味線や長唄の独特のリズム、舞台袖の柝(拍子木)の響き・・・

 

物語に出てくる歌舞伎の演目も、見たことのある懐かしい作品です。

娘道成寺、先代萩、仮名手本忠臣蔵、女殺油地獄、藤娘、鷺娘・・・

鷺娘なんか、玉三郎の写真集も持っていたのに、あれはいったい今どこにいったのだろう・・・?

 

その後、私の興味の対象もいろいろ変わり、タイ語を勉強したりタイで働いたり、結婚して出産し、子育てに大忙しだったり、今の私の生活には歌舞伎のかの字もないですが、たまにはまた観劇に行ってみようかしら、という気になりました。

あの時大好きだった役者さんたちの多くは、もうこの世にいなくなり、すっかり代替わりしてしまった感があります。

歌舞伎座も立て替えられ、私の知ってる劇場じゃなくなりました。

でも、今の若い役者さんたちが伝統の芝居を演じているのを見たら、また贔屓になるかもしれませんね。

人生100年時代のお楽しみのリストに、「歌舞伎鑑賞」も入れておこうかと思います。

 

 

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