ブックレビュー

「絵本の力」と絵本「たいせつなこと」

 

おとなに絵本を読むのがいいな、と思っています。

ずっと息子たちに絵本を読んできましたし、小学校で読み聞かせをするのも大好きです。

でも、おとなの方に絵本を読んで、笑顔になってくれたり、心が動かされたと言ってもらえたりすると、とても嬉しい気持ちになります。

 

先日、フェイスブック上で広がっていた「7日間ブックカバーチャレンジ」に参加して、7冊の本を紹介しました。

この中の一冊、「絵本の力」(河合隼雄・松居直・柳田邦男 岩波書店)について、もう少し書きたいと思います。

 

この本は、2000年11月に、小樽にある「絵本・児童文学研究センター」が開催した講演会とシンポジウムの記録です。

登壇者は、臨床心理学者の河合隼雄氏、児童文学家の松居直氏、ノンフィクション作家の柳田邦男氏の三名です。

絵本を子どもだけのための書物としてではなく、大人にも深い影響を与える新しいメディアとしてとらえ、それぞれの視点で、絵本の魅力や可能性について語っています。

 

三人の話のそれぞれに、ハッとさせられ、深くうなずくところがありました。

 

長年、絵本の編集にたずさわり、福音館書店の月刊絵本「こどものとも」を生み育てた松居直氏は言います。

「絵本は、子どもに読ませる本ではない。大人が子どもに読んでやる本です。」

「絵本というのは、絵を見ながら読んでもらうときに不思議な働き、大きな世界をつくっていくんです。」と。

これは、もちろん子どもに限りません。

絵本セラピーを学び、体験していく中で、大人も絵本を自分で読む時と、読んでもらった時の印象が大きく違うことを実感しました。

絵本は、声に出して読んであげる、読んでもらうように作られているのです。

目から見る絵と、耳から入ってくる言葉で、初めてその絵本の世界が体験できるようなイメージです。

 

また、ノンフィクション作家の柳田邦男氏の話にも心を打たれました。

柳田氏は、息子さんが25歳の時に、自殺という形で亡くされたそうです。

その喪失感や自分を責める気持ち、苦しみの中で、昔息子さんに読んであげた絵本を手に取るようになったとのこと。

児童文学や絵本には無縁だった柳田氏は、大人になってからつらい体験をへて、絵本の力、可能性に気づいたと言います。

 

柳田氏が、ひとつ印象的なエピソードを紹介されていました。

幼い弟の死の床に立ち合った兄と姉に、小児科のお医者様が「わすれられないおくりもの」(スーザン・バーレイ:著 小川仁央:訳 評論社)という絵本を読み聞かせたそうです。

アナグマのおじいさんが、トンネルを抜けてあちらの世界に行くお話。

残された仲良しだった動物たちの悲しみと、その事実を受け止めていく様子を象徴的に描いた物語です。

 

弟の死をうまく受け止められなかった幼い兄姉も、この絵本を通じてドクターが語りかけたことで、弟の死を彼らなりに理解し、正面から受け止められたようです。

柳田氏は、「この絵本を読んでごらんなさいといって渡してお医者さんが医局へ帰ってしまったら、きっと肝心なことは何もつたわらなかったし、子どもたちも読み取ることはできなかったかもしれない。」と言います。

「そこで読んで聞かせてあげるという場と時間を持ったこと、これがものすごく大事なことだ」と。

 

また、戦争や震災、喪失体験について、絵本はどう語るかについても言及しています。

生々しい体験談、ドキュメンタリーや記録とは違って、簡潔さゆえに、より鮮烈な形で表現されているとのこと。

だから、時代や地域を超えて、普遍的に人々の心に届くものがあるのではないかと思います。

 

臨床心理学者の河合隼雄氏は、「人間の心の深層というのと、絵本はいちばん関りが深いのじゃないでしょうか。」と言っています。

「人間の心の深いところは事実としては語れないことが多いわけですから、そうすると、どうしても物語るか、イメージになるかしかない。そういう意味でも僕は大人が絵本を見るというのは、ほんとうに意味が大きいと思う。」以上、青字部分『絵本の力』より引用)

 

今、まさに世界中が今までの常識をくつがえされるような困難の渦中にいます。

不安や恐怖、混乱と向き合い、整理する力。

傷つき、疲弊した心を癒し、立ち直るしなやかさ。

止めてしまった活動を再開し、立て直すバイタリティ。

新しい価値観や生活スタイルの創出に踏み出す実行力と発想力。

そういう、目に見えないところに働きかける。絵本にはその力があると信じます。

 

これから、たくさんの人に絵本を読んでいきたい。それは私のミッション。

20年前の講演の記録を、今このタイミングで手に取ったことは、必然だったのだと思います。

 

そんな気がして、早速たまたま手元にあった絵本を、久しぶりに息子たちに読みました。

この本は、1949年出版されて以来、多くの人に読み継がれてきましたが、なぜか日本では出版されていませんでした。

2001年、内田也哉子さんの翻訳で、半世紀もの時を経て出版されました。

シンプルな言葉で、物や自然の本質に目を向け、大切にしています。

最後のページのメッセージは、手書きの文字で書かれています。

なんと、也哉子さんのご主人、本木雅弘さんの手による文字だとか。

ご夫婦で、真心こめて完成させた翻訳絵本です。

 

あなたにとって たいせつなのは、

「あなたが あなたで あること」

 

忙しくしていた仕事も、学校も、部活も止められ、家族で巣ごもりで過ごす日々に、この本を息子たちに読むことも、必然だったような気がします。

 

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