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「幸せのきっぷ-Kiss & Goodbye-」3月11日に読んだ絵本

3月11日。

忘れらない日。忘れちゃいけない日。

あれから9年。

テレビも新聞もこの話題。

あの時の凄惨な体験。復興の軌跡。いまだ元の生活に戻れない人や地域のこと。

そして、二度と帰ってこない大切な人たちのこと。その突然の別離。

胸をえぐられるような記事や記録ではなく、私は今日この絵本を読みました。

 

ひとりぼっちになった少年シュウが、愛犬プリンと一緒に誰も乗っていない電車に乗っておじいちゃんのところへ行きます。

持ち物は、パパからもらった魔法のトランクだけ。

宝物はぜんぶトランクにつめた。

本、おもちゃ、自転車、それから、ママの大好きだったピアノ・・・

あの日から、シュウはいろんなことを忘れていきました。

ママの言葉も、パパのバラに水をあげることも、自分がまだ子どもだということも・・・。

列車に乗り込んだシュウは、線路を走る音を聞き、移り変わる車窓の景色を見ながら、長い間忘れていたことをゆっくりと思い出します。

ママのひくピアノを、そばで聞いているのが好きだったこと。

パパの背中に乗って、ひんやりとした海で泳いだこと。

 

いろんなことを思い出すにつれ、今はひとりぼっちだということを実感してしまうシュウ。

「ぼく、もう一度、大きな声で言わなくちゃいけないんだ。

パパとママに『だい、だい、大好き』って。」

「だれも落ち葉を木に戻せはしない、春を待つしかないんだ。」

子どもながら、絶対的な現実を悟るところがけなげでせつなくなります。

 

一人で電車に乗って旅をしてきて、おじいちゃんに抱き上げられた時、シュウはもう前を向けるようになっていました。

「空に、大地に、花に、キスしよう。

草に、おじいちゃんに、プリンに、キスしよう。」

そして、

「ようし、ぼく、ちゃんと大きくなるよ」と。

 

この絵本は、震災や津波を扱ったお話ではありません。

しかし、作者のジミーは、日本を舞台にした作品を手掛けるにあたって、東日本大震災で被災した子供たちのことを思ったと言います。

過酷な体験をし、傷ついた子供たちに心を寄せ、再生する力を信じて描かれた作品なのではないでしょうか。

 

日本と台湾で同時出版されたこの作品、ちょっとおもしろい生まれ方をしています。

「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」と呼ばれる世界最大級の国際芸術祭があります。

これは、過疎高齢化の進む日本有数の豪雪地・越後妻有(新潟県十日町市、津南町)を舞台とし、「人間は自然に内包される」を基本理念に、2000年から3年に1度開催されています。

大地の芸術祭は、豊かな里山の土地や、廃校などの使われなくなった古い建造物を利用した、様々なプロジェクトがあります。

その中の一つに、越後妻有地域を走るJR飯山線の駅にアート作品を配した「JR飯山線プロジェクト」というものがあり、2015年に台湾の人気絵本作家ジミー・リャオがこのプロジェクトに参加して生まれたのがこの作品、「幸せのきっぷ -Kiss & Goodbye-」なのです。

 

JR飯山線アートプロジェクトについては、こちら。↓

 

このプロジェクトで絵本を制作すると同時に、飯山線沿線の土市駅と越後水沢駅に、絵本の世界を体現した作品が作られました。

制作途中の様子が、新潟県のHPにありました。↓

実は、私、2018年に見に行ってます。

 

土市駅の駅舎と、この地域でよく見られるかまぼこ型倉庫を模して、シュウの乗っていた電車を再現しています。

この中は、原画ギャラリーや、絵本のお話をアニメ化したものの上映などがあり、ちょっと不思議な空間です。

 

ジミー・リャオのオフィシャルサイト

アニメーションも見られます。

違うアングルから見るとこんな感じ。

 

ここを訪れたのは、夏でした。

緑の濃い、豊かな里山の自然は、力強い生命力を感じました。

人の前に進む力を信じて、今日、この絵本を読みました。

 

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