大人の絵本深読み

絵本『かんけり』に見る、人が覚醒する瞬間

こんにちは!

大人に絵本を読んでいる、絵本セラピスト🄬らくちゃんです。(プロフィールはこちら

「わたしが変わると、世界が変わる!?」というテーマで、大人に絵本を読みました。

自分が変わることで、周囲に変化を生み出す「主体変容」について考え直してみたくて、選んだテーマと数冊の絵本。

そこから感じたこと、気づいたことは人それぞれです。

ここまでに、「となりのたぬき」と「うまれかわったヘラジカさん」を取り上げました。

今回は、「かんけり」(石川えりこ:作 アリス館)が描いた「主体変容」について、ご紹介します。

あらすじ

ちえちゃんは、ひっこみじあんの女の子。

ある日、親友のりえちゃんに誘われて、放課後数人の友達とかんけりをすることになりました。

ちえちゃんは、かんをけるのが怖くて、今まで一度もかんをけったことがありません。  

りえちゃんと一緒に物置小屋にかくれていますが、次々に友達がつかまっていきます。

とうとうりえちゃんも、友だちを助けに出て行きます。

「わたしがつかまったら、ちえちゃん、たすけてね」と言い残して。  

りえちゃんが、つかまった! どうしよう、どうしよう・・・  

教室でも、ちえちゃんは手が上げられません。

真っ赤になってうつむくちえちゃんを、りえちゃんがいつも助けてくれます。

今は、りえちゃんが「たすけて」って言ってる・・・

ちえちゃんは、「よし!」と自分に声をかけ、思い切って物置小屋から飛び出していきました。

かんをけりたかったわけじゃない

「かんけり」がどういう遊びか、知っていますか?

じゃんけんで負けておにになった人が、30数える間に、他の人はいそいで隠れます。

おには、隠れた人を見つけると、なまえを呼びながらかんをふみます。

おにに見つかり、おにがかんをふむ前にかんをけれなかった人は、「つかまった」ことになり、動けなくなります。

まだつかまっていない人は、おにより前にかんをけり、つかまった人を助けます。

ちえちゃんは、もともと「かんけり」をやりたかったわけではありません。

活発な友だちのりえちゃんに誘われて、「いや」と言えずに参加した感じでした。

今まで、かんをけるのが怖くて、まだ誰も助けたことがないちえちゃん。

隠れるときも、りえちゃんに物置小屋に押し込められ、顔が熱くなったり冷たくなったり。

りえちゃんにくっついて、ドキドキしていただけでした。

その頼みの綱のりえちゃんが、つかまってしまったのです!

しかも、出ていく前に「つかまったら、ちえちゃん みんなを たすけてね」と言い残して。

「よし!」が覚醒のスイッチ

りえちゃんの言い残した言葉が、ちえちゃんの頭の中でぐるぐる回ります。

「どうしよう・・・どうしよう・・・」

ちえちゃんは、りえちゃんのことを思います。

教室で、顔が真っ赤になって、手があげられないとき、

先生から声をかけられて、どきどきして答えられないとき、

いつも助けてくれるのは、りえちゃん。

今、小さな穴からそうっとのぞくと、ちえちゃんにだけわかるように、りえちゃんが小さく手をふっています。

「た・す・け・て・ち・え・ちゃ・ん」

そのりえちゃんを見て、意を決したちえちゃん。

「よし!」と自分に声をかけ、走り出ます。

ちえちゃんが、覚醒した瞬間です。

自分が変わって、未来が変わる

覚醒した後の、かんに向かってまっしぐらに駆けていくいく、ちえちゃんの力強い表情が印象的です。

「となりのたぬき」のように、相手をなんとかしたいと思ったわけではありません。

「うまれかわったヘラジカさん」のように、自分を変えたいと思っていたわけでもありません。

ただ「りえちゃんをたすけなきゃ!」の一心で、無我夢中でとった行動が、結果的にちえちゃんを覚醒させました。

この絵本の最後のページ、ちえちゃんが教室でしっかりと前を向き、まっすぐ手をあげている絵が描かれています。

一度覚醒したちえちゃんは、もう今までのちえちゃんではなくなったのですね。

目標を立てるとき、自分の得たいもの、なりたい姿とともに、自分以外の誰かが得られること、その誰かが喜んでくれることをイメージすると、達成の確立が格段にアップすることがわかっています。

誰に何をしてあげたいか。

どう喜んでもらいたいか。

そのためなら、自分は変われるし、変わった自分が見る世界も今までとは違う世界になっているはず。

そんなことを、象徴的に描いたこの「かんけり」、何度読んでも胸が熱くなります。