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写真絵本「もりはみている」の、1枚の写真を撮るのにかかった時間

こんにちは!
大人に絵本を読んでいる、絵本セラピストらくちゃんです。(プロフィールはこちら

大好きな写真家、大竹英洋さんの写真絵本「もりはみている」がハードカバーになって出版されました。

もともと、幼稚園などに配本されるムック本「こどものとも 年少版」として、2015年10月に出版されたものです。

今年、写真家に贈られる権威ある賞「土門拳賞」を受賞した大竹さん。

各地でパネル展やスライドトークが開催され、オンラインでのトークショーもありました。

その中での大竹さんの言葉にハッとし、気づきを得たのでご紹介します。

写真絵本「もりはみている」について

もりはみている

大竹英洋:文・写真

福音館書店

静かな森の中。 松の木の巣穴の奥からアカリスが見ている。

ヤマナラシの木の上からは子グマの兄弟が見ている。

木立の向こうからはトナカイが見ている。

絵本に登場する動物たちの、じっとこちらをみつめる瞳には、読み手を一瞬にして静謐な森の奥へ誘う力があります。

そして梢や木陰からあらわした姿をみると、まるで実際に森の中で出会ったような驚きを覚え、読後には深い森を旅してきたような余韻が残ります。

出版社ホームページ作品紹介より引用

作者は、北米ノースウッズの森で野生の動物や自然を撮り続けている写真家、大竹英洋さん。

ノースウッズとは「米国とカナダの国境付近から北極圏にかけて広がる北米の湖水地方」をいいます。

そこで撮りためた野生動物の写真から、「みている」写真を集めて作られた本書。

森の中で、じっとこちらを見ている動物たちの澄んだ目は、本当に美しく、かわいらしく、ある意味神々しいとも見えます。

トークイベントで印象的だった話

ところで、この表紙の写真。

松の木の巣穴からのぞいているのは、アカリスです。

今回のハードカバー出版にあたって、PRのためにパネル展やトークイベントなどが開催されました。

その中で視聴したZoomのトークイベントで、大竹さんが話されていたことが印象的でした。

パネル展などで、お客さんに「この表紙の写真を撮るまでに、どれくらいかかったのですか?」と聞かれることがあるそうです。

その時、「どれくらいだろう?」と、ふと考え込んでしまう。

ここにキャンプを張って、どれくらいでこのアカリスと出会ったんだっけ?

そもそもなんで、ここにキャンプを張ったんだろう?

なんで、ノースウッズで写真を撮ることになったのだろう?

なんで自然写真を撮ろうと思ったのだろう?

・・・と遡っていくと、子どもの頃、秘密基地を作って、そこでかいだ落ち葉の匂いまでたどり着く。

そう思うと、この世に生を受けてからのすべての時間がここに繋がっているのではないか、と。

質問をしたお客さんに、そんな深い意図はなかったのかもしれません。

でも、ここまで考えてしまう大竹さんの感性に、キュンとしてしまいます。

私の1枚も、人生の集大成

実は、私も毎朝ウォーキングをしながら、写真を撮っています。

近所の田んぼ道を、スマホで撮っているだけの素人写真で、大竹さんを引き合いに出すのもおこがましいのですが、コロナ以降「朝散歩+写真+SNS投稿」が日課になりました。

自分が「きれい」「かわいい」「珍しい」と思った季節の景色や生き物を、心の向くままに撮っているだけですが、見てくれている友人から、腕前をほめられたり、「楽しみ」「癒される」と嬉しいコメントをもらうようになりました。

これも、ここに暮らす誰もが見られる景色でありながら、そこに着目し、その構図で切り取ったのは私だけ。

今までの私の人生の時間、経験から作られた感性が切り取った、世界でたった1枚の景色。

私の写真をほめてくれた友人が言ってくれたことがあります。

「絵本をたくさん読んでいるから、景色を切り取る視点とか、構図とか、美しいものを発見するセンスとかが、潜在意識の中に蓄積されているんだと思うわ」と。

なるほど。それもあるかもしれません。

また、私は30年以上、ゆる~く茶道のお稽古を続けています。

茶道の中にある禅的考え方や、森羅万象、宇宙そのものと言える自然をリスペクトする哲学。

シンプルな茶室のしつらえ。

「野にあるように」飾る季節の花。

茶道具や掛け軸の中に表現された不変的なテーマや四季折々の意匠。

知らず知らずのうちに、出会ったお道具の数や取り合わせのパターンは、かなりの数になっています。

もちろん、タイに暮らしていた時に見た熱帯の景色、空や花の色、美術品や工芸品のデザイン。

それらも私の中にあります。

今日のお散歩で撮った1枚にかかったのは、私の生きてきた時間ということです。

すべてのアウトプットが、その人の人生そのもの

この考え方って、絵本セラピーにも通じますね。

同じ絵本を、同じ時に、同じ人から読んでもらっても、大人は感じることや思い浮かぶことが違うのは、人それぞれ生きてきた人生が違うから。

そう思うと、自分がアウトプットするものは、自分の人生そのもので唯一無二のもの。

それって、ちょっとすごいことだと思いませんか?

大竹英洋さんのこと

写真家大竹英洋さんのことは、『そして、ぼくは旅に出た はじまりの森ノースウッズ』(あすなろ書房)という本で知りました。

おそらく、私が人生の中で影響を受けた本ベスト10に入ります。

この本のことは、こちらの記事にも書きました。

同書で「第7回梅棹忠夫・山と探検文学賞」を受賞されています。

2020年2月に、初の本格的な写真集「ノースウッズ ー生命を与える大地ー」(クレヴィス)を出版。

福音館書店の「こどものとも」のような写真集は、それまでにも何冊か出版されていましたが、本格的なものは本書が初めて。

写真を撮り続けて20年の集大成となりました。

これ、2020年の2月に出版だったのですよ。

出版を記念して、東京六本木のフジフィルムスクエアでパネル展が開催されました。

私、それを見に行く予定で、ワクワクしてその日を待っておりました。

ところが、新型コロナの感染拡大で、急遽会期途中で打ち切りに・・・見に行けませんでした。(涙)

しかし、この写真集が認められ、今年、2021年、「第40回 土門拳賞」に輝きました。

一時は、写真家の道を断念しかけたとも聞きますが、そこを乗り越えて、写真を撮り続けてくれてよかったと心から思います。

これからも、写真家大竹英洋さんの作品を楽しみに、応援していきたいと思います。

大竹英洋さんホームページ